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平成22年
49 エンディングノート
ある日突然に
最近高齢者の行方不明が社会問題として取り上げられている。そして戸籍管理上の不備と年金の不正受給が注目されている。すでに亡くなっているのに書類上まだ生存しているということは、遺産分割や資産の名義変更も行なわれずにいることだろう。
全ての人が悪意を持って手続きを行なわなかった訳ではないと思う。手続きが煩わしいから、どうやって良いのか分からないという理由もおそらくあるだろう。繰り返し頻繁に発生することならば手続きの方法は熟知されている。ところが人の死は突然やってくるので何をどうしたら良いのか分からないのが当たり前である。相談できる人が近くにいなければ、途方と悲しみに暮れるだけになってしまう。
何とか葬儀は周囲の人に教えてもらいながら終えたとしても、資産や負債の存在、遺産の分割などは他人に相談できることではない。どうすればいいのと位牌と遺影に向かって話しかけても答えは返ってこない。
もし生前に故人のメッセージがあればどれほど助かるだろうか。故人の意思に従って看護や介護、葬儀や法要、遺産分割や形見分け、資産の種類と保管場所等を知ることができれば、迷うことなく故人の死を受け入れ、相続手続きがスムーズに行なえるだろう。
エンディングノートは故人のメッセージ
故人の意思の伝達方法として遺言がある。遺言は満15歳以上の責任能力のある者ならば、誰でも作成することができる。遺書とは異なり記入する内容にいくつか限定されている。
例えば相続人の廃除と廃除取消、相続分の指定および指定の委託、遺産分割方法の指定および指定の委託、遺産分割禁止、遺贈、子の認知等である。他にもまだいくつも規定しているが、故人である被相続人があの世からこの世の誰に何をどのくらい分け与えるかを言い伝えたものだ。これによりこの世の人たちが迷うことなく、争うことなく法的効力の下で資産を継承することができる。
遺言には法的効力があるゆえ作成方法が厳しく限定され、さらに裁判所で検認を受けなければならない場合があり、何かと作成には面倒である。
近頃故人のメッセージを伝える方法として注目されているのが「エンディングノート」である。書店でも数多く置いているので、手に取って見た方もいるだろう。まだ見たことのない人のためにその概略を紹介しよう。家計簿と同様に書き込み形式になっているので、項目にしたがって記入していくことになる。
まず自分が病気や事故にあった場合のことである。誰に世話をして欲しいか、自身の身体の特徴や病歴等を記入する。更に病状が悪化して回復の見込みがなくなった場合、介護する場所、余命の告知の有無、その後どのように過ごしたいかを記入する。また脳死状態になったら、延命措置の有無、臓器提供や献体について記入することができる。
続いて自分の所有する資産について記入していく。預貯金の金額と口座番号、株式の銘柄および株数、債券や投資信託も同様である。保有する不動産においては、登記をもとに土地や建物の住所や名義などを記入する。
保険も大切な資産である。保険種類、保険金額、保険会社、受取人、証券番号など生命保険と損害保険に分けて記入する。クレジットカードなどもカード名、カード番号、カード会社等をまとめておく。
資産はプラスの資産と共にマイナスの資産である借金があれば明らかにしておく。相続になればプラスもマイナスも合わせて継承することになる。もし保証人になっていればノートに記録しておく。
そしてこれらの資産を誰に受け取って欲しいかを表す。確実に実行されるには遺言書になるが、ノートには希望をまとめておくことができる。
葬儀、お墓については、葬儀の予算、会場、喪主、使用する遺影、飾り付けや会場で流す音楽、死装束、死亡通知の送付先、お墓、納骨、法要、仏壇、墓参りなど記入することができる。
ノートによってはここでまとめた内容を元に遺言の作成に発展したり、これまでの人生を振り返り自分史の作成につなげたりすることもできる。
自分の記憶と記録を整理し、書き記していくことで、これまでの人生の振り返りこれからの人生をどのように過ごすか役立つことになる。自分が亡くなった後資産の分割で争うことも防止できる。しかし、項目に従って記入することでは良いことばかりではなさそうだ。
書き過ぎは遺族の迷惑
自分自身の生い立ちや身体の状態、資産や負債の状況、遺産分割など故人しか分からないことや判断が付かないことは、書き記してあれば遺族は大変助かるだろう。葬儀にはお金がかかるし、お金だってどこのどれだけあるか子供でも知らないことが多い。まして故人が保有している土地や建物、金融資産をどのように分けるかなど、本人で
なければ到底分からないことかもしれない。
しかし希望する葬儀の方法を指示されても、保有資産や香典の額を超え遺族が持ち出しになるようでは困ったことになる。祭壇の飾りつけ生花が季節外れだったら、生花集めに奔走しなければならない。形見分けも受取人が本当に喜ぶものであれば良いが、使いもしないものであれば捨てるに捨てられないことになる。
きちんと書き残しておかなければ、子供たちは何もできない、心配で死に切れないという思いで作成されたノートを受け取った子供たちはどのように感じるだろう。親として子供たちを信頼していないことを最後のメッセージに表したことにならないだろうか。何でも思いつくままノートにしたがって記入すれば良いとはいえない。
もうすぐ死んでいく自分を思うとこの世に生きた証を少しでも残したいと考えるかもしれない。生前付き合いがある人や面識のある人から見れば故人を偲ぶ上では貴重な資料になる。亡くなって何十年も経ち、面識も記憶もない人がノートを見たら、受け取り方は異なるだろう。
相続の手続き
エンディングノートは大げさに構えることなく項目にしたがって記入していけば作成することができるといわれているが、一般の知識を超える法律的知識に関わることがいくつもある。
人が亡くなると通夜、告別式、初七日法要、四十九日法要が一般的に行なわれる。四十九日法要には同時に形見分けが行なわれるだろう。
相続財産の放棄をしようとすれば、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければならない。プラス資産よりマイナス資産が多い場合はプラス資産の範囲でマイナス資産を負担する限定承認が行なえる。これも相続の開始があったことを知った日から3 ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければならない。期限までに行なわなければ、単純承認といってプラス資産もマイナス資産も全て受け継ぐことになる。
相続は年の中途で発生するので、亡くなった日までの所得税を精算しなければならない。これを準確定申告というが、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に住所地の税務署に申告する。そして相続の開始があったことを知った日の翌日から10 ヶ月以内に相続税の申告を行う。
遺産分割において相続人が配偶者と子だけであれば、配偶者1/2子1/2 が法定相続分である。故人の遺言や意思表示がなければ、遺族間で協議され紛糾した場合は、法定相続分に従って分割されるだろう。
もし子が全財産を母親に渡そうと自らの権利を放棄したら、相続人は配偶者と親になる。親がすでに亡くなっていれば、配偶者と兄弟姉妹が相続人になり、その際の法定相続分は配偶者3/4兄弟姉妹1/4である。遺言がなければ兄弟姉妹には権利が発生するので、母親に全て渡そうという子の思いは果たせなくなってしまう。
ノートや遺言で特定の者にほとんどの財産を相続させようと記入すると、遺留分の侵害が発生することがある。相続人は最低限受け取れる相続財産が遺留分によって保障されている。
エンディングノートを書くことは残された遺族等に伝えるメッセージとして大切で有意義である。ノートを作成することでこれまでの人生とこれからの生き方が整理されるだろう。その際関連する知識に気を配れば、受け取る者の立場でノートを作成することができる。
長野日報土曜コラム平成22年9月25日掲載
有限会社テヅカプラニング 手塚英雄
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